外商投資法の立法趣旨及び影響
作者:苗暁艶 时间:2019-07-30

2019年3月15日、外商投資分野の基本法である「外商投資法」が第13期全国人民代表大会二次会議において決議され、2020年1月1日より正式に施行されることとなった[1]。

外商投資法は6章42条からなる。外商投資法は、投資政策に基づく外商投資の参入条件、会社法に基づく組織機構の設計・管理、契約法に基づく契約及び定款の内容規制等を包括的に定めていた従来の外資三法の体系[2]とは異なっており、その立法趣旨は、外商投資に関する基本的な法律制度の枠組みを確立することにあり、その条文構成も、基本的・原則的な条項が主となっている。

「ネガティブリスト」とは、外国企業による投資を原則として許容した上で、投資が制限される例外的分野をリストアップして定める外商投資管理方法である。そのメリットとしては、政府機関による審査認可手続の簡略化、市場の自治と政府の監督との境界の明確化及び外資誘致の促進にあると考えられる。また、外商投資法に基づく「内国民待遇」とは、投資参入の段階にある外国投資者及びその投資活動に対して、中国国内の投資者及びその投資活動への待遇を下回らない待遇を提供することを指す。

その後、ネガティブリストが上海自由貿易区において3年間実施され、試験的な投資開放が成功したことを経て、商務部は2016年10月8日に「外商投資企業の設立及び変更届出の管理に関する暫定弁法」(以下「暫定弁法」という)を公布した。当該「暫定弁法」は、ネガティブリストに記載されていない分野への外商投資を許認可制から届出制に変更するものであり、これ以降、内国民待遇とネガティブリストによる管理方法が全国的に導入されることとなった。

また、中国はネガティブリストの管理方法を未だ模索しており、今後は試験的な運用を通じて次第に規制を緩和していくことが予想される。例えば、上海自由貿易区が公布したネガティブリストには、当初190項目の特別管理措置が設けられていたが、2018年版では45項目まで減少している。その一方で、実際には依然として、ネガティブリスト以外にも外商投資に対する規制が存在している。

よって、特別な管理措置が講じられる分野へ投資する外国投資者にとっては、当該業界に対する法令の立法背景、実施状況及び立法動向に注目すべきである。特に、関連法令がない場合又は規定が不明である場合には、投資リスクを避けるために、業界主管部門の指導の下で、実行可能性を十分に検証した上で投資を慎重に進めるべきだと考える。

二.会社法の全面的な適用

 
 

ただし、当該規定が一般的な内容に過ぎなかったことから、外商投資企業の意思決定機関をどのように設置すべきかについては不明確であった。その後、「外商投資の会社の審査認可及び登記管理における法律適用に関する若干の問題の執行意見」が、異なる類型の外商投資企業についてさらに明確に区分を行い、「中外合弁、中外合作の有限責任会社は、関連法規に従って董事会を意思決定機関とし、会社のその他の機関は企業自治の原則により定款により規定されるものとし、外商合弁、外商独資の有限責任会社と外商投資の株式有限責任会社の機関は、『会社法」の規定に従って構築されなければならない」と規定した。

中国側投資者及び外国側投資者の出資比率が同じであることが多い中外合弁企業においては、通常、董事会が中国側投資者及び外国側投資者によりそれぞれ任命された同じ人数の董事で構成されるため、董事間の意見が一致しない場合にデッドロックに陥りやすいという問題があった。「外商投資法」の施行後、中外合弁企業を含む全ての外商投資企業においては、内資企業と同様に、株主会あるいは株主総会が会社の最高意思決定機関とされ、株主は出資比率に応じて議決権を行使するため、上記問題が有効的に解決されることが期待できる。

ところが、「外商投資法」の施行後においては、上述のような少数株主の保護措置は消滅するため、中外合弁事業においては、今後5年間の移行期間の間に、株主間で経営上の意思決定権に関する再協議の必要が生じ、さらには支配権争いが勃発することが予想される。会社の正常な運営及び各株主間の権利義務関係の明確化のため、工商登記手続の観点からは、株主間で合弁契約を改めて締結し直す必要まではないものの、株主間契約を締結し、株主間のルールを明確化したほうがよいと考える。(例えば、中外合弁会社の総経理と副総経理は他社の総経理及び副総経理になることが禁止されており、中国の個人は中外合弁会社の株主になることができない等)が存在したが、「外商投資法」の施行により、これらの規制も消滅することとなる。

三. VIEスキームの動向

 
 

2015年に公布された外国投資法の草案においては、外国投資家が契約、信託等の方法で国内企業または国内企業の権益を支配することは「外国投資」に該当し、外国投資に関する参入管理、安全審査、情報報告等の管理監督対象となる旨が規定されていた。

しかしながら、外商投資企業法においては「外商投資者の定義」及び「実質支配」の定義が削除され、一般にVIEスキームにおいて用いられている「契約による実質支配」については、外国投資の管理対象から削除した。上述のような立法の変化はあったものの、その取扱いを主管部門の今後の規則制定と法執行に委ねていることから、中国政府部門(商務部等)のVIEスキームの合法性に対する態度は、依然として不明確なままである。

たとえば司法実務においては、最高人民法院が審理した案件において、VIEスキームの構造は外国人投資家による投資を禁止する強制的な規定に違反し、VIEスキーム上の契約は違法な目的を合法な形式で覆い隠す無効な契約であると判断されたものがある。

一方で、長沙亜興置業発展有限公司(以下「亜興置業」という)と北京師大安博教育科技有限責任公司(以下「安博教育」という)との契約紛争案件[4]において、最高人民法院は「外商投資産業指導目録」及び「商務部の外国投資者による国内企業の買収における安全審査制度の実施に関する規定」は部門規定であり、法律や行政法規ではないと解釈した上、法律上や行政法規上の強制的な規定に違反するものではなく、違法な目的が合法な形式で覆い隠されていると判断することはできず、それによって契約が無効であるとは判断できないとした。

一方で、2015年の外国投資法の草案では、VIEスキームについて監督管理対象とされることが規定されており、また「外商投資法」第2条第2項第4号では、「外国投資者が法律、行政法規又は国務院が定めるほかの方法で中国で投資する場合には外商投資と見なされる」という原則的な規定が設けられていることに鑑み、将来、VIEスキームの適法性の判断及びVIEスキームに対する監督管理などの一連の問題を解決するために、商務部、証券監督管理委員会及びその他業界管理部門は、行政法規等の形で関連規定を公布する可能性がある。このため、「外商投資法」が正式に施行された今後も、関連する立法の動向に引き続き注目すべきである。「外商投資法」第9条ないし19条は、国際的な注目を浴びている投資促進に関する規定であり、外商投資企業が中国内資企業と平等に基準制定及び政府調達に関与すること、並びに資金調達ルートの拡大について定めている。

外商投資企業が、中国内資企業と平等に基準制定及び政府調達に関与することは、外商投資企業から中国政府への要求が集中している分野であり、内国民待遇を徹底的に実施するために直面せざるを得ない課題である。国家標準委員会、国家発展及び改革委員会並びに商務部は、2017年11月6日に「外商投資企業によるわが国の標準化業務への関与に関する指導意見」を公布した。当該通知においては、外商投資企業が標準化に関与する場合には内資企業と同等の待遇[5]を有するものとし、外商投資企業による標準化に関する特許は保護されるべきとした[6]。

外商投資企業にとっては、標準化に関与することにより、同じ業界及び市場での知名度を高め、業界の発展方向を導き、さらに業界のリーダーになることを期待することができる。また、強制的な基準の適用により、外商投資企業が生産する製品の中国国内市場の占有率及び影響力を拡大し、企業の競争力を強化する効果があると考えられる。

政府調達の対象については、数多くの国家及び地域と同様、中国の「政府調達法」においても国産製品を調達するという原則が定められている[7]。しかしながら、「政府調達法」においては、国産製品の基準に関する明確な規定がなく、「わが国の貨物、工事及びサービスの判断については、国務院の関連規定に従って執行する」と定められているだけであり[8]、「国務院の関連規定」による国産製品に関する基準はいまだに定められていない。

もっとも、「中国国内で生産」については、完全に中国国内で生産するのみを指すか、又は「輸出入貨物原産地条例」で定められている最終的に実質的な改変が生じる国が中国である場合[9]も含まれるかについては、現在の規定では明確に定められていない。

3.資金調達のルートの拡大

2017年1月に国務院が公布した「外国資本の積極的な利用拡大に関する若干の措置についての通知」によれば、条件を満たす外商投資企業は、法律に基づいてメインボード(主版)、SME(中小企業版)、GEM(創業版)への上場を行うことができ、これら3つの証券取引所を通じて、社債、転換可能な債券等の発行による資金調達を受けることができる。当該規定の施行は、「外商投資法」が外資系企業の資金調達方法を明確に拡大する基礎となった。

一方で、2017年1月1日から施行される「中国人民銀行による全範囲クロスボーダー融資のマクロプルーデンス管理に関する通知」の規定に基づくと、外商投資企業は、2017年1月1日から2017年12月31日までの過渡期において、投資総額と登録資本金の差額又は企業の純資産の2倍までのいずれかの枠内で外債を借りることができる[11]。外商投資企業に対する上記取り扱いは、過渡期における試験的な運用であり、過渡期の満了後、中国人民銀行及び外貨管理局が実施状況に基づいて評価した上、外商投資企業越境融資の管理政策を決めるとされているが[12]、実務上、過渡期の満了後、企業の純資産の2倍までの範囲で外債を借り続ける外商投資企業が多いようである。

外商投資企業の苦情陳述制度について、商務部は2006年に「商務部による外商投資企業の苦情陳述に関する暫定規定」を公布した。当該暫定規定においては、全国の外商投資企業苦情処理センター及び各地の受理機能を有する部門により処理され[13]、また、同規定によると、当事者がクレーム事項について仲裁機関に対して仲裁を申請し、裁判所に訴訟又は行政再審を申し出る場合には、当該苦情の処理を終了させる[14]。

一方、「外商投資法」第26条によると、外国投資者、外商投資企業は、行政機関及びその担当者から適法な権益を損害された場合には、調停で解決するよう申請することができるが、行政再審及び行政訴訟を提起することも認められる。

「外商投資法」第28条ないし35条は、上述した外商投資参入のネガティブリスト以外の投資管理に関する規定である。以下においては、その主要な方針として、①外商投資情報の報告制度の確立及び②外商投資安全審査制度の構築の2点について解説する。

商務部が2017年に公布した「外商投資情報報告制度の一層強化と情報開示プラットフォーム構築関連作業に関する通知」が施行されて以来、外商投資企業は年次レポートを通じて事後的な監督管理を受けることとされている。外商投資企業は毎年4月1日から6月30日までの間に、「全国外商投資企業年度投資経営情報の連合報告応用」

「外商投資法」34条 は、「国家は外商投資情報の報告制度を構築する。外国人投資家あるいは外商投資企業は、企業登録システム及び企業の信用情報開示システムに基づいて、投資情報を管轄の主管商務部門に報告しなければならない。外商投資情報の報告内容と範囲は、明確な必要性の原則に基づいて確定される。政府部門間での情報共有を通じて取得が可能な投資情報については、再度の報告を要求してはならない。」と規定する。当該規定からも、中国政府による外商投資企業の監督が、事前審査から事後的な管理による最適化へ移行していることが伺われる。2.外商投資の安全審査制度の確立

前者は全国規模で外国の投資家が中国国内の企業を合併、買収する場合(株式譲渡、株式の引受けおよび資産の取得を含む)に適用され、後者は自由貿易区の範囲内のみに適用され、合併、買収行為には外商投資企業の新設、株式譲渡、株式の引受け及び支配権の取得、委任、信託、再投資、海外取引、リース、転換社債の引受け等の方法による投資が含まれる。

「外商投資法」34条は、「国は、国家の安全保障に影響を与え、または影響を与えうる外国投資の審査を行うための審査制度を確立する。法律に基づいて実施された審査決定を最終的な決定とする。」と規定する。

上述の「自由貿易試験区における対外投資の国家安全保障審査のための裁判措置の印刷および発行に関する通知」に基づいて、今後公表される関連法規においては、契約による管理や代理保有等の方法によるVIEスキームに基づく投資活動についても審査対象とする規定が新設される可能性がある。

七、最後に

 
 

今後、政府関連部門においては、外商投資管理制度の運用を通じて、その実現可能性を十分に実証した後、外商投資企業に対して適用する投資管理制度をより明確化し、国家安全審査制度と外商投資情報の報告制度等の関連制度を整備した上で、「限定的な許可と包括的な報告」を外商投資企業の監督における新たなモデルとして確立することが期待される。

 

注释:

[1]:本稿の中国語版については、https://mp.weixin.qq.com/s/1YTv63DnXL-fcgX8KtY-Ywで掲載されている。

[2]:本稿では、「中外合弁経営企業法」、「中外合弁経営企業法実施条例」、「中外合作経営企業法」及び「中外合作経営企業法実施細則」、「外資企業法」及び「外資企業法実施細則」並びに『「外資企業法実施細則」の若干条項に関する解釈』で構成される、従来外商投資企業に適用されていた基本的な法律法規を指す。

[3] :variable interest entitiesの略称。

[4]:ケイマンで登録し、海外で上場を目指す安博持株会社が中国国内で設立した完全子会社である北京安博在線軟件有限公司が、安博教育及びその個人株主との間で、独占提携契約、貸借契約及び持分質権設定契約など一連の契約を締結し、VIEスキームで安博教育を実質に支配した上、安博教育をして亜興置業により投資して設立された湖南にある幼稚園の運営権及び経営収益権などを間接に譲り受けさせたが、亜興置業は、譲渡対価として取得した安博持株会社の株式を安博持株会社の上場後売却することができなかったため、安博教育を提訴し、上記幼稚園の運営権及び経営収益権などを回収することを請求した案件である。

[5]:「外商投資企業によるわが国の基準化業務への関与に関する指導意見」第1条。

[6]:「外商投資企業によるわが国の基準化業務への関与に関する指導意見」第5条。

[7]:「政府調達法」第10条によると、政府は、中国の貨物、工程及びサービスを購入しなければならない。

[8]:「政府調達法」第10条。

[9]:「輸出入原産地条例」第3条によると、完全に同一の国家(地域)で獲得する貨物は、当該国家(地域)を原産地とし、二つ以上の国家(地域)で関与して生産する貨物については、最終的に実質的な改変が生じた国家(地域)を原産地とされる。

[10]:外債管理暫定弁法第18条第1項。

[11]:中国人民銀行による全範囲クロスボーダー融資のマクロプルーデンス管理に関する通知第6条及び第13条第2項。

[12]:中国人民銀行による全範囲クロスボーダー融資のマクロプルーデンス管理に関する通知第13条第3項。

[13]:「商務部による外商投資企業の苦情陳述に関する暫定規定」第5条。

[14]:「商務部による外商投資企業の苦情陳述に関する暫定規定」第12条。

[15]:foreign direct investment.

微信公众号 ×

使用“扫一扫”即可添加关注