競業避止義務発動条項の効力に関する考察
作者:喻鑫 高颖 日付:2021-06-16

人材の争奪戦が激化する今日、多くの企業がその管理や経費削減のために、従業員との間において競業避止義務発動条項(以下「発動条項」という。即ち、企業が一方的に従業員に対し競業避止義務の履行を要求するか否かを選択する旨の条項)、及びその他柔軟的処理について約定している。それ故に、様々な類型の発動条項やこの発動条項に関連する紛争が生じている。本稿では、実際の裁判事例を交えて、いくつかの典型的な発動条項の法的効力について考察する。企業の皆様の参考になれば幸いである。

 

離職後の競業避止義務の適用決定時期

 

多くの企業が、離職する従業員に対しては、その従業員の離職後の動向を見極めながら、競業避止義務を適用させるか否かを決定したいと考えているようである。そのため、「会社は、従業員の離職から一定の期間内において、当該従業員に対して競業避止義務の履行を要求するか否かを決定することができる」といった約定が多く見受けられる。実務上この種の約定が法院に認容される可能性は低い。法院としては一般に、従業員の生活の保全という観点から、従業員の職業の自由は不確定要素によって制限を受けてはならないと考えるため、企業においては、遅くとも離職日当日までには従業員に対して競業避止義務の履行を要求するか否かを確定させなければならないと考えているようである。

 

北京の事案([2016]京0108民初4835号)で争われた「会社は、従業員が離職した後30日以内に、従業員に対して競業避止義務を負担するよう要求するか否かについて選択することができる」という約定について、法院は、競業避止義務とは従業員の職業選択の自由を奪うものであるから、従業員が競業避止義務を遵守すべきか否かは離職時においてすでに確定された状態になければならないと考え、前記の約定の効力を認めず、従業員に対する補償の支払いを企業に命じる旨の判決を下した。

 

補償支払いの要否について

 

企業が補償の支払いを条件に競業避止義務を適用する旨の約定をすることは、一般に裁判実務においても認められている。もっとも、この場合、企業は従業員が競業避止義務を履行する期間に対応する補償を支払わなければならない。また、司法解釈によれば、従業員は3ヵ月分の追加的補償を要求することができるとされている。

 

 [2020]京01民終6677号の事案では、労使双方において、「企業が従業員に対して競業避止義務を履行させることを決定した場合、企業は従業員の離職後に月ごとに補償金を支払えば足りる。従業員に補償金を支払わない旨を決定した場合、従業員は競業避止義務を履行することを要しない」旨を約定した。当該約定は補償支払いの期間が明示されておらず、また、未支払いの時期がどの程度に達した場合に双方間の競業避止義務の約定を解除することができるか否かも明確にされていなかった。本件において、裁判所は前記の条項の効力は認めたものの、双方間の競業制限の約定は、従業員の離職日から一か月後に解除されたものと認定した上で、従業員に対する補償の支払いを企業に命ずる旨判示した。

 

また、[2018]京02民終6324号の事案では、労使双方において「企業は2か月連続して従業員に補償を支払わない場合、従業員の競業避止義務は補償に関するの二回目の支払期日をもって解除されるものとする」旨が約定されていた。双方は補償の支払時期についても明確に約定していた。法院は、前記の約定は適法かつ有効であると認定し、従業員の競業避止義務は当該企業における2回目の支払期日をもって解除されるものとし、企業において従業員に対して補償を支払うべき旨の判決を下した。

 

離職時の競業避止義務適用についての非明示

 

従業員の離職する際に、競業避止義務を履行するよう要求するか否かを選択することができると約定されているものの、実際の離職時には明確な選択がなされないというケースもある。この場合、法院においては、企業が従業員に明確に告知していなかったとしても、上記のような約定と相反する約定がない場合には、従業員に対して競業避止義務の履行を要求するものとみなされると解するケースが多いようである。

 

杭州の事案([2020]浙01民終3600号)では、労使双方において、「企業は従業員が離職する際に、従業員に対して、離職日から競業避止義務を履行すべき旨を告知することができる」と約定したが、従業員が実際に離職する際に、企業は従業員に対して、競業避止義務を履行することになるか否かについて、明確に説明していなかったが、その後、従業員は競業避止義務を履行した。法院は、企業は従業員に対して競業避止義務を履行するよう明確に要求してはいなかったものの、逆にかかる要求を放棄する旨を明確にしてもいなかったと指摘した上で、企業には明示の形式により競業避止義務を免除する旨の告知を行う義務があったと認定し、従業員に補償を支払うよう企業に命ずる旨の判決を下した。

 

上海の事案([2018]滬02民終11655号)では、労使双方において「従業員が離職する際において、会社は従業員に対して競業避止義務を履行することを要求するか否かを選択することができる」とする約定が争われた。従業員が離職した後、企業は従業員に対して補償を支払わないまま、その離職から2か月後、当該元従業員は競合他社に入社した。この点について、法院は、従業員においては自らが競業避止義務についての合意を妥結したことを認識しており、且つ、離職時に企業が従業員に対して競業避止義務の履行を要しない旨を明確に告知したことを証明する証拠もないことから、従業員は競業避止義務を履行すべきであると判示した。もっとも、労使双方において約定した「会社が従業員に対して競業避止義務の履行を要求しないと選択した場合、会社は補償を支払うことを要しない」との条項について、法院としては、「会社が補償を支払わない場合、従業員は競業避止義務を履行することを要しない」との反対解釈を導き出すことまではできないと考えた点については注意が必要である。法院はさらに、離職後補償が支払われないのであれば、従業員としては、関係する司法解釈に基づき自らの権利を行使することができるのであって、なおも競業避止義務を履行すべきものである、と指摘した。法院は、最終的に従業員において競業避止義務についての違約責任を負うべき旨判示した。

 

以上を踏まえ、発動条項が問題となった事案において、法院は、公平の原理に基づき双方の利益の均衡に資するべく、企業の選択権濫用を抑制するという手法を講じることがある。企業が設定した発動条項に瑕疵が存在する場合には、会社の管理の効率化や経費削減の効果を実現不可能にするだけでなく、競業避止条項の無効又は期待した効果をも実現不可能としてしまう可能性がある。したがって、競業避止条項を設定する場合には、自社の実情を踏まえて、充分に条項の有効性、運用可能性、管理上のコストや利便性について考慮し、発動条項の正確性、有効性を保持すべきであって、必要があるときには、専門家を巻き込み、不測の事態を回避するよう対応すべきであろう。

 

また、筆者としては、企業において、いかなる発動条項が約定されていたとしても、従業員の離職日又はそれ以前に、従業員に対して競業避止義務を履行することを要求するか否かについて明確に告知し、これを従業員離職事務の管理における必須のプロセスとしておかれることをお勧めする。

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