従業員に対して停職処分としたうえで調査を受けさせるよう手配するという手法は、企業が不正行為の処理対応を行う際によく見受けられる手法です。しかしながら、そのオペレーションが不適切であった場合には、企業側が逆に不利な局面に直面してしまう可能性、ひいては法的リスクにさらされてしまう可能性まであります。本稿は従業員の不正処理対応における停職調査の果たす役割、コンプライアンスの観点でのリスクについて分析し、これに対する処理対応のアドバイスを提供しようとするものです。ご参考いただければ幸いです。
なぜ停職させるのか?
停職調査とは、企業が従業員の不正行為を究明するための重要な手段であります。企業が従業員に紀律、規則に反すると疑うべき状況を発見した場合、従業員を停職させ調査を受けさせるという措置は、企業が事実関係、真相を究明し、従業員による調査過程における妨害行為、不正行為の継続を防止し、その他不正を知る者からの自主的な告発を促し、調査のスピードを速めることに資すると同時に、相応の程度において従業員に対してプレッシャーを与えて、従業員による早期の自主的な報告を促しうるものであるともいえます。
コンプライアンスリスク
企業が従業員に不正行為があると発見したという場合に、従業員に対して停職とし、調査を受けさせるよう手配することができるか否かについて、現行の法令にはこの点に関する明確な規定は設けられていません。一般的には、会社内部において停職の措置を講じて調査を実施することは企業の自主管理権の範囲内にあるものと考えられます。しかしながら、実務上は、一部の強気な従業員から企業による停職措置を拒み、企業側の調査に協力しないという態度を採る者が少なからず現れます。このような状況において、仮に従業員が停職させたうえで調査を実施するという措置に従わなかったことを以て、企業がその従業員を解雇した場合、これにより違法解除と認定されるリスクを引き起こしてしまう可能性があります。
法律実務上、法院が当該類型の解雇の適法性を認定するにあたっては、次の点を重点的に審理するのが一般的です。
(1)企業が従業員を解雇した理由及びその手続が適法かつ有効な規則制度の規定又は契約の約定に合致したものであったか否か;
(2)従業員が停職調査措置に従わなかったことの重大性の如何;
(3)従業員が停職調査措置に従わなかったことにより重大な結果を生じさせたか否か。
例えば、(2020)遼0102民初第6482号潘多拉珠宝労働紛争事件の事例において、従業員はその停職処分期間中において、店舗の通常営業時間に、店舗の出入口の扉を閉める等の店舗の通常営業を妨害する行為をしたことにより、店舗に悪影響を生じさせたものであり、企業の規則制度に対する重大な違反を生じさせているとし、法院は企業がこれを根拠に従業員を解雇したことは適法といえる、と認定しました。
しかし、(2020)津01民終第2707号恩宜(天津)工事労働紛争事件の事例において、従業員が企業による停職処分を拒絶し、業務用PCの返却等を拒絶する等したため、企業は規則制度に基づき、従業員に対して書面による警告を行った後、労働関係を解除しました。しかし、企業は二度の書面による警告をした後でなければ解除することができないと定めていたところ、解除通知が二回目の書面による警告が従業員に送達される前であったため、最終的に企業の当該解除は違法解除であると認定されてしまいました。したがって、企業がこのような解雇決定を下す際には、多方面の慎重な考慮評価が必要であると思われます。
また、停職処分をしたうえでの調査の期間において、企業の従業員の給与、社会保険、積立金の処理について、法令に適合しない対応が散見されます。
法律実務において、企業が従業員の停職期間の給与を完全に控除するという措置を認容する事例は少なく、一般的には、企業において少なくとも従業員の停職期間における基本的に必要な生活を保障すべきであり、給与は現地の最低給与基準を下回らないようにすべきと解されています。しかし、裁判実務において、次のような見解があります。企業は次の条件を満たす場合には情状に鑑みて、従業員の給与を減額することができる:(1)従業員に不正行為があり、企業の権利利益を侵害した場合に、企業は従業員に対して減給停職処分を講じたうえで調査を実施することができるというような規定を規則制度に設け又は契約上に約定しているような場合;(2)規則制度に規定された場合に、これら規則制度は民主的な告知手続を経て、かつ従業員による署名を経ていることが必要である;(3)従業員に確かに不正行為があったことを証するに足る証拠があること。
例えば、(2020)京民申第422号北京中鉄工業労働紛争事件の事例において、法院は企業が規則制度の規定に基づき現地の最低給与基準により紀律違反を犯した従業員に対して停職期間の給与を支給したことを認容しました。仮に、企業が根拠を欠きみだりに従業員の給与を控除した場合、従業員は企業の給与不払いを主張し、逆にこれを根拠に先立って労働契約の単独解除をし、企業に対して経済補償金を支払うよう要求してくる可能性があり、企業としては不利な局面にさらされ、不利益な結果を負う形になる可能性があります。また、停職措置を講じたうえでの調査の期間には双方の労働関係がなおも存続していることから、企業は従業員に対して引き続き社会保険料及び積立金を納付し続けなければならず、これを履行しなかった場合、追納させられる等のリスクを負担する羽目になる可能性があります。
対応方法ついての助言
企業による従業員に対する停職調査についての法令適合性を強化するべく、我々としては、企業の皆様に対しては次のように提案いたします:
(1)事前に労働契約の約定、及び規則制度において明確に従業員の不正又は規律違反についての調査期間において、企業は従業員に対して停職調査を実施し、停職期間においては暫定的に基本給与基準又は現地の最低給与基準により従業員に対して給与を支給することができ、調査の結果嫌疑が事実のものであることが判明した場合、以後給与差額については支払わないものとし、同時に従業員が停職調査に従わなかった具体的な状況及び合理的な処分方法について明記する;
(2)調査段階は従業員について休暇を手配し、有給休暇を優先的に手配することができる;
(3)有給休暇を消化し終わった場合に、引き続き従業員を休暇させて調査する必要があるとき、一般的にはなおも従業員に対して正常に給与を支払わなければならず、従業員の不正についての証拠が充分である場合、契約の約定又は規則制度に規定する給与基準を考慮して給与を支給することができる。ただし、現地の最低給与基準を下回ってはならない;
(4)停職処分を前提する調査期間において、企業は引き続き従業員に対して社会保険料及び積立金を納付しなければならない;
(5)従業員が停職処分の実施に従わない場合、従業員の具体的な行為の情状の重大性の程度に鑑みて処分を下すことができる。
従業員について停職処分を実施し、従業員の不正行為について究明し、企業にとっての「害悪」を取り除くことは確かに重要ですが、停職調査自体の法令適合性についても無視することはできません。企業は制度による根拠を整備し、停職調査の処理方法を適正化し、企業と従業員の権利義務の境界線を画定し、停職調査の最終目的の実現を確保するべきと考えられます。